「子育て疑似体験」を導入!

 子供をやっと保育園に送り出した。で、安心して出社すると数時間後に、保育園から「お子さんが発熱したのでお迎えにきてあげてください」と連絡が入る。こうなると、どんなに重要な会議やクライアントを待たせていても、こちらは待ったなし。職場のみんなに迷惑をかけることになるので、深い絶望感と挫折感といたたまれない気持ち、でも1秒でも早く子供を迎えにいってやりたいので、いろんな意味のこもったタメ息をつきながらさっき出社したばかりの職場を駆け出していく。こういう体験、小さい子供を持ちながら働く方なら必ず経験があるかと思います。とくに保育園児だと、やっと病気が治ったと思って登園させたらまた違う病気をもらってきてしまい、なかなか出社がままならないということも。まわりの人たちも、表面上は「いいよ、いいよ」と言ってくれるけど、本当はどう思っているのか分からない。

 こうしたやるせない不安を抱える「子育てパパママ社員」の疑似体験を、全然関係のない世代の社員に体験させる企画が実行されました。企画したのは、人事総務部のグループで、数人の社員に1ヵ月限定で体験させるのだそうです。発端は、ある女性社員が「将来の子育てへの不安」を抱えていたこと。そこから、仕事と子育てとの両立の大変さは頭では分かっていても、実際にやってみないと実感が持てないし理解も深まらない。こうした思いをほかの女性社員とも共有した結果、この企画に結び付いたそうです。この企画を実行させてくれた社長も素晴らしい方ですね。

 

 今回の取材でその体験者となっていたのは、人事総務部主幹の53歳男性社員。ご本人は、すでにお子様も大きく手もかからない年齢になっておられるとのこと。しかも、子育ては奥様に一任していたので上記のような経験は全くなかったということでした。

 ある日のシュミレーションでは、この男性が取引先に向かっている最中、携帯に見知らぬ着信があった。「保育園です。娘さんが発熱したのでお迎えをお願いします。」とのこと。この電話も、企画した人事グループが仕組んだもの。被験者のルールとしては、

1.呼び出しの連絡が入ったら、その日はそこで業務を強制終了(これは痛い)

2.勤務時間は、部署や役職に関係なく絶対に9:00~17:30(これプラス保育園の送迎にかかる時間が1~2時間は必要だからね)

3.パソコンを持ち帰っての夜間の仕事は禁止(家に帰ってからも子育てはあるからね)

4.残業や飲み会への参加は週1回まで(これは許容範囲広いと思うよ)

という設定です。

 体験した男性は、「この状況が1ヵ月も続くことを考えると本当につらい」と悲痛な訴えを心のなかで叫んだそうです。←そう、この叫びです。実際に体験した人にしかわからない叫びがこれなのです!わたしも産休をとって職場復帰した経験がありますが、実際に復帰する前夜まで、もっとのんきに構えていましたからね。(うちの子は絶対に病気をしないから大丈夫)みたいな得体の知れない自信までもっていて、復帰後のバリバリ働く自分の姿しか想像できなかった!わたしの場合は天然能天気freedom野郎なので、どのような場面でもこういう感じなのですが、それにしても、本当に子育てだけは未知の感情や想像を絶する展開が満載なのです。

 ちなみにこの男性は、「時間の有効活用と同僚との情報共有」を心がけ、勤務時間が限られているため、営業先との直行直帰を増やすことで移動時間を減らし、書類作りは空き時間にその辺のカフェで行ったそうです。また、こなすべき業務をリストにしてパソコン上で上司や同僚にも見られるようにしていました。こうした結果、無駄な作業が減り効率が上がったのだそうです。そしてこの結果、労働時間が減っても業績は落ちなかったといいます。

 

 この企画をした人事グループは、「なりキリンママ」と題して来年1月から交代制で、毎月最大200人には体験してもらう予定だという。全正社員約6500人、いずれはこのすべての社員に1度は体験してもらうそうです。ゆくゆくは「介護パターン」も拡大していくとのこと。そして、ここで得たノウハウを他社へ提供することも視野に入れているそうです。

 

 「少子高齢化」まさに、この時代を乗り切るために大切なシュミレーションだと思います。最近では、テレワークを取り入れ、出社せずとも在宅や別の環境で作業できるように取り組む企業も増えつつあります。誰もが制約ある働き方を求められる可能性が高まってきた。その中で、いかに効率よく周囲と連携をとりながら生産性の高い職場環境がつくれるか。これはとても重要な課題だと思いました。